HSPで開発していると、「この処理、重いからDLL化したほうがいいのかな?」と悩むことがあります。 しかし、すべてをDLL化すればいいわけではありません。DLL化には開発コストがかかりますし、場合によってはかえって遅くなることもあります。
この記事では、DLL化すべき処理とHSPのまま書くべき処理の判断基準を、具体例とともに解説します。
目次
DLL化のメリット・デメリット
メリット
1. パフォーマンスの向上
C/C++でコンパイルされたネイティブコードは、インタプリタ言語であるHSPに比べて圧倒的に高速です。
- ループ処理:10倍~100倍以上高速化することも
- 浮動小数点演算:5倍~50倍程度高速化
- メモリ操作:直接操作により大幅に高速化
2. 外部ライブラリの利用
HSPから直接使えない既存のライブラリを活用できます。
- 画像処理ライブラリ(OpenCV、stb_image等)
- 暗号化ライブラリ(OpenSSL等)
- データベースライブラリ(SQLite等)
- ネットワークライブラリ
3. コードの再利用性
一度DLLを作れば、複数のHSPプロジェクトで使い回せます。
4. 知的財産の保護
DLLはコンパイル済みのため、ロジックを隠蔽できます(完全ではありませんが)。
デメリット
1. 開発コストの増加
- C/C++の知識が必要
- デバッグが難しくなる
- ビルド環境の構築が必要
2. 移植性の低下
- プラットフォーム依存(Windows/Linux/Mac等)
- アーキテクチャ依存(x86/x64/ARM等)
3. オーバーヘッド
HSPとDLL間の呼び出しにはコストがかかります。処理が軽すぎると、このオーバーヘッドで逆に遅くなることも。
4. 配布ファイルの増加
DLLファイルを別途配布する必要があり、管理が煩雑になります。
DLL化すべき処理
1. 大量のループ処理
例:配列の全要素に対する計算
; HSPでの実装(遅い)
dim data, 1000000
repeat 1000000
data(cnt) = cnt * cnt + cnt * 2 + 1
loop
このような単純な計算でも、100万回のループになるとHSPでは数秒かかります。 DLL化すれば数十ミリ秒で完了します。
判断基準:
- ループ回数が1万回以上
- ループ内で複雑な計算を行う
- 頻繁に実行される処理
2. 数値演算が中心の処理
例:
- 物理演算(衝突判定、重力計算等)
- 画像処理(フィルタ、色変換等)
- 暗号化・ハッシュ計算
- 数学的計算(行列演算、統計処理等)
; 物理演算の例(DLL化推奨)
; 多数のオブジェクトの衝突判定
repeat objnum
repeat objnum
; 距離計算
dx = obj_x(cnt) - obj_x(cnt2)
dy = obj_y(cnt) - obj_y(cnt2)
dist = sqrt(dx*dx + dy*dy)
if dist < obj_r(cnt) + obj_r(cnt2) {
; 衝突処理
}
loop
loop
オブジェクト数が多いと処理が重くなるため、DLL化の効果が大きいです。
3. メモリ操作が多い処理
例:
- 大量のデータのソート
- バイナリデータの解析・変換
- メモリバッファの操作
; バイナリデータの解析(DLL化推奨)
; ファイルから読み込んだバイナリデータを解析
sdim buf, filesize
noteload buf, filename
; 各バイトを処理...(HSPだと遅い)
4. 既存のC/C++ライブラリを使いたい場合
例:
- 画像処理: OpenCV、stb_image
- 音声処理: PortAudio、libsndfile
- 圧縮: zlib、lz4
- データベース: SQLite
- JSON/XML解析: RapidJSON、pugixml
- 正規表現: PCRE、oniguruma
これらのライブラリはC/C++で書かれているため、DLL経由で使うのが最適です。
5. システムAPIを直接叩く必要がある場合
例:
- レジストリの高度な操作
- ファイルシステムの詳細な制御
- プロセス・スレッド管理
- ネットワークの低レベル制御
HSPからも#uselibで一部可能ですが、複雑な構造体を扱う場合はDLLを挟んだ方が安全です。
6. リアルタイム性が求められる処理
例:
- ゲームの当たり判定(60FPS維持)
- 音声・動画のリアルタイム処理
- センサーデータのリアルタイム解析
フレームレートを維持するために、1フレーム内で処理を完了させる必要がある場合、DLL化が有効です。
DLL化すべきでない処理
1. 単純な処理・軽い処理
例:
; これをDLL化する必要はない
a = 10
b = 20
c = a + b
理由:
- DLL呼び出しのオーバーヘッドの方が大きい
- HSPでも十分高速
- 開発コストに見合わない
判断基準:
- ループ回数が数百回以下
- 処理時間が1ミリ秒未満
- 頻繁に呼び出さない処理
2. HSPの標準命令で十分な処理
例:
; 画面描画(HSPの得意分野)
gsel 0
color 255, 0, 0
boxf 100, 100, 200, 200
pos 110, 120
mes "Hello, HSP!"
理由:
- HSPの描画命令は内部的に最適化されている
- DLL化してもほとんど速くならない
- コードの可読性が下がる
3. UIの制御・ユーザー入力の処理
例:
; ボタン配置やイベント処理
button "OK", *on_click
stop
*on_click
dialog "クリックされました"
return
理由:
- HSPのUI系命令は使いやすく、DLL化のメリットが少ない
- イベント駆動の処理はHSPで書いた方がシンプル
- デバッグがしやすい
4. 頻繁に仕様変更がある処理
例:
- ゲームのバランス調整パラメータ
- UIのレイアウト調整
- テキストメッセージの変更
理由:
- DLL化すると再コンパイル・再配布が必要
- HSPなら即座に修正・テスト可能
- 開発スピードが重要
5. プロトタイピング段階の処理
開発初期段階では、すべてHSPで書くべきです。
理由:
- 仕様が固まっていない
- 何度も書き直す可能性がある
- まず動くものを作ることが優先
戦略:
- Phase 1: すべてHSPで実装
- Phase 2: ボトルネックを特定(
gettime等で計測) - Phase 3: 本当に遅い部分だけDLL化
6. デバッグが複雑な処理
例:
- 状態管理が複雑な処理
- 多数の条件分岐がある処理
- エラー処理が重要な処理
理由:
- C/C++のデバッグはHSPより難しい
- クラッシュすると原因特定が困難
- まずHSPで動作確認してからDLL化を検討
特殊なアーキテクチャパターン:HSPを「Drawer(描画エンジン)」として使う
概要
HSPでは構造体の扱いが難しく、複雑なゲームロジックを実装するのが大変です。 そこで、ゲームロジック全体をC++/DLLで実装し、HSPは描画とUI表示のみを担当するというアーキテクチャがあります。
このパターンが適している場合
✅ 複雑なゲームロジック
- オブジェクト指向設計が必要
- 多数のエンティティ管理(敵、弾、アイテム等)
- 複雑な状態管理(ゲームステート、AI等)
✅ 構造体・クラスを多用したい
- HSPでは構造体の扱いが制限的
- C++ならクラス、継承、ポリモーフィズムが使える
✅ 大規模プロジェクト
- コードの保守性・再利用性を重視
- チーム開発で役割分担したい
アーキテクチャ例
┌─────────────────────────────────┐
│ HSP(描画レイヤー) │
│ - screen, color, boxf, mes │
│ - UI表示 │
│ - 入力の受付と転送 │
└─────────────────────────────────┘
↕ DLL呼び出し
┌─────────────────────────────────┐
│ C++ DLL(ロジックレイヤー) │
│ - ゲームループ │
│ - 当たり判定 │
│ - AI・物理演算 │
│ - エンティティ管理 │
└─────────────────────────────────┘
実装イメージ
C++側(DLL):
// ゲームロジック全体を管理
class GameEngine {
std::vector<Enemy> enemies;
std::vector<Bullet> bullets;
Player player;
public:
void Update(float deltaTime);
RenderData GetRenderData(); // 描画情報を返す
};
// DLL公開関数
extern "C" __declspec(dllexport)
void GameUpdate(float deltaTime, int* inputs) {
// ロジック更新
gameEngine.HandleInput(inputs);
gameEngine.Update(deltaTime);
}
extern "C" __declspec(dllexport)
int GetObjectCount() { return gameEngine.GetObjectCount(); }
extern "C" __declspec(dllexport)
void GetObjectPosition(int index, int* x, int* y) {
auto pos = gameEngine.GetObjectPosition(index);
*x = pos.x;
*y = pos.y;
}
HSP側(描画):
#uselib "gamelogic.dll"
#func game_update "GameUpdate" double, var
#func get_object_count "GetObjectCount"
#func get_object_position "GetObjectPosition" int, var, var
; メインループ
screen 0, 800, 600
dim inputs, 10 ; キー入力配列
repeat
; 入力収集
stick inputs(0), 15
; ゲームロジック更新(DLL)
game_update 16.6, inputs ; 60FPS想定
; 描画(HSP)
redraw 0
color 0, 0, 0 : boxf
get_object_count
objCount = stat
repeat objCount
get_object_position cnt, x, y
; オブジェクトを描画
pos x, y
mes "●"
loop
redraw 1
await 16
loop
メリット
✅ ロジックとビューの分離 - 役割が明確で保守しやすい
✅ C++の強力な機能を活用 - クラス、STL、デザインパターン等
✅ 描画はHSPで手軽に - HSPの得意分野を活かせる
✅ 段階的移行が可能 - 最初はHSP、徐々にロジックをDLL化
デメリット
❌ 初期開発コストが高い - 最初からDLLインターフェース設計が必要
❌ デバッグが複雑 - HSPとC++を行き来する必要
❌ オーバーヘッド - 毎フレーム大量のデータをやり取りすると遅くなる可能性
判断ポイント
この「HSP as Drawer」パターンを選ぶべきかは、以下で判断しましょう。
採用を検討すべき:
- ゲームロジックが複雑(100行以上のステート管理等)
- オブジェクト数が多い(50個以上のエンティティ)
- 既にC++の経験がある
- 長期的な保守・拡張を見越している
通常のHSPで十分:
- シンプルなゲーム(ミニゲーム、パズル等)
- プロトタイピング段階
- 短期間で完成させたい
- HSP初心者
判断基準のフローチャート
以下のフローチャートで判断してみてください。
START
↓
処理は重い(体感で遅い)?
↓ YES ↓ NO
計測してみた? → HSPのまま
↓ YES
本当にボトルネック?
↓ YES ↓ NO
ループ処理? → HSPのまま
↓ YES ↓ NO
ループ回数1万回以上? 数値演算が中心?
↓ YES ↓ YES
DLL化検討 外部ライブラリ使う?
↓ YES
DLL化必須
↓ NO
HSPで最適化を試す
重要:測定せずに最適化しない!
憶測でDLL化するのではなく、必ずgettimeなどで処理時間を計測しましょう。
; 処理時間計測の例
t1 = gettime(7) * 1000 + gettime(6) ; ミリ秒取得
; ここに計測したい処理
t2 = gettime(7) * 1000 + gettime(6)
mes "処理時間: " + (t2 - t1) + " ms"
実装例
例1:配列のソート(DLL化推奨)
HSP版(遅い):
; バブルソート(10万件で数十秒)
dim arr, 100000
; ... データ初期化 ...
repeat length(arr) - 1
repeat length(arr) - cnt - 1
if arr(cnt2) > arr(cnt2 + 1) {
tmp = arr(cnt2)
arr(cnt2) = arr(cnt2 + 1)
arr(cnt2 + 1) = tmp
}
loop
loop
DLL版(高速):
; C++のstd::sortを使ったDLL
#uselib "mysort.dll"
#func quick_sort "QuickSort" int, int
dim arr, 100000
; ... データ初期化 ...
quick_sort varptr(arr), length(arr) ; 数ミリ秒で完了
例2:文字列処理(ケースバイケース)
単純な文字列連結 → HSPのまま
; これはHSPで十分
sdim result, 10000
result = "Hello, " + name + "!"
正規表現マッチング → DLL化推奨
; 複雑なパターンマッチングはDLLで
#uselib "myregex.dll"
#func regex_match "RegexMatch" str, str, var
sdim text
text = "メールアドレス: test@example.com"
regex_match text, "[a-zA-Z0-9._%+-]+@[a-zA-Z0-9.-]+\\.[a-zA-Z]{2,}", result
例3:画像処理(DLL化推奨)
; ぼかしフィルタなどの画像処理はDLL化で大幅高速化
#uselib "imagefilter.dll"
#func blur_filter "BlurFilter" int, int, int, double
; HSPで画像読み込み
buffer 1
picload "input.jpg"
; DLLでフィルタ処理(高速)
blur_filter 1, ginfo_winx, ginfo_winy, 5.0 ; 半径5のガウシアンブラー
まとめ
DLL化すべき処理の特徴
✅ 大量のループ処理(1万回以上)
✅ 数値演算が中心(物理演算、画像処理等)
✅ 既存のC/C++ライブラリを使いたい
✅ リアルタイム性が必要(60FPS維持等)
✅ メモリ操作が多い(ソート、バイナリ解析等)
HSPのまま書くべき処理の特徴
❌ 軽い処理(数百回以下のループ、単純計算)
❌ HSPの標準命令で十分(描画、UI制御等)
❌ 頻繁に変更する処理(パラメータ調整等)
❌ プロトタイピング段階
❌ デバッグが複雑な処理
開発フロー
- まずすべてHSPで実装する
- 計測してボトルネックを特定する(憶測で判断しない)
- 本当に遅い部分だけDLL化する
- 効果を測定して、改善されたか確認する
過度な最適化は悪です。必要な部分だけ、適切にDLL化しましょう。
参考リンク
HSPとDLLを適切に使い分けて、高速で保守性の高いアプリケーションを作りましょう!
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